前回の記事、「NikeとAdidasの例」では、バイアスやヒューリスティックが、ビジネスの成長にどれだけ大きく影響するのかをマーケティングの観点から説明しましたが、年々この影響は大きくなっている気がします。特に2007年にiPhoneがリリースされた頃から、この影響は顕著にあらわれている気がします。

恐らくそれは、それまでインターネットにアクセスできなかった人たちがスマートフォンを手にしたことで、より多くの人が様々な情報にアクセスできるようになったからだと思われます。実際にはある事を直接体験していなくても、インターネットを介して得た情報でその体験の価値をわかったかのような錯覚になっているため、バイアスやヒューリスティックが大きく作用してしまっているのです。詐欺広告やフェイクニュースが溢れているのも、このバイアスやヒューリスティックの影響です。言い換えると、偏った認知やヒューリスティックを利用して情報錯覚させているわけですが、このように人間がもつ認知機能の理解とその操作が、UXデザインでは求められます。

そこで、今回はUXデザインの実践においてバイアスとヒューリスティックがどのような影響をもたらすのか解説していきたいと思います。

既知ものか未知のものか?

製品やサービスが無形物かどうか関係なく、UXデザインの実践でまず最初にやるべきことは、それらをどう使ってもらうのか、使い方(利用のされ方)というゴールをまず決めることです。このゴールを決めるときに考慮すべき点は、デザインする対象物が既存のものか、そうでないかです。すでに多くの人に使われている既知のモノゴトには、バイアスやヒューリスティックが様々な形で作用します。

コーヒーを飲むときのUXを考えたことはありますか?マグカップの形を変えると飲み心地はどうかわるでしょうか?

brown liquid on white ceramic cup and saucer

例えば、コーヒーのマグカップ。取手がついてるのは当たり前ですが、最近ではオシャレなカフェなんかは取手がない湯呑みのような形のカップで提供されています。マグカップも湯呑みも存在している日本では、どちらで出されても全く普通のことですが、湯呑み文化のないヨーロッパで、取手がないカップでコーヒーを提供されたら、どう感じるでしょうか?

このように、既知のものに対しては、「こうあるべきだ」というバイアスが作用します。そして、既知のパターンに照らし合わせて、ヒューリスティックが作用するわけですが、これを代表性ヒューリスティックといいます。今まで取手がついたマグカップでのみコーヒーを飲んできた人にとって、湯呑みを見て、それがコーヒーを飲むためのものという判断はつくでしょうか?

実際に飲食店では、マグカップも湯呑みも何か飲み物が入れられた状態で提供されるので、見てすぐに両方とも何かを飲むためのものだとわかるので、バイアスとヒューリスティックはそこまで影響を与えるものではないですが、これをソフトウェアやモバイルアプリに置き換えて考えてみましょう。

誰を基準にするか?

ソフトウェアやモバイルアプリは何もないところから、ユーザーにどう製品を使わせるかを考えて形にしていくわけですが、インターネットが一気に普及し始めたWindows 95が販売された当時と現在では、状況が大きく異なります。当時は、それまでホームページという概念自体が存在していなかったため、どういう見せ方や機能が必要なのか、デバイスやブラウザの進化とともに様々な実験的な方法が数多く取られてきました。モバイルアプリも同様です。iPhoneが誕生した2007年と現在を比較すると、ユーザーの使い方やUIに対する期待値は大きく変わっています。

2003年当時のAppleのホームページ。当時はデバイスや技術的な理由でブラウザ上で表現できることに限界があったため、どの企業のホームページも情報をただキレイに並べるだけのものでした。

この数年間は大きな変化もなくUIのトレンドも落ち着いてたかのように見えてましたが、ChatGPTの誕生によって、Web の世界はまた大きな変化を今迎えようとしています。恐らく10年も経てば、生まれてから生成AIに囲まれて育った若い世代がビジネスの中心となり、あらゆる製品やサービスにAIが組み込まれていると思います。

このように、時代の推移とともに、製品自体の使われ方やデザインで実現可能なことが大きく変化しているフィールドでは、ユーザーの製品に対する期待値や当たり前が常に変化しています。特に世代ごとで大きな隔たりが生まれやすく、そこには何が良い・悪いの判断以前に、価値観のベースにある製品体験自体が大きく異なるため、製品に対する捉え方が根本的に違うということをまず理解する必要があります。

企業のホームページやニュースサイトのようにただ情報を載せて配信するものであれば、テクノロジーの進化によるバイアスとヒューリスティックの影響はさほどありませんが、製品やサービスとしてソフトウェアやアプリを開発する場合は、デザイナーだけでなく、セールス、マーケティング、事業オーナーなど事業の意思決定に関わる人達全員に共通する基準を事前に設定しておくか、または誰のヒューリスティックを基準にするのか、明確な判断材料を事前に決めておく必要が多いにあります。

未知の受け入れとチャレンジ、そしてバランス

ソフトウェアやモバイルアプリはテクノロジーがベースにあるため、新しい技術の採用や試みは避けて通ることはできません。むしろエンジニアやデザイナーなど開発側にいる立場の人たちは率先して推奨していることが多いのですが、いざビジネスの場になると状況はかわります。

例えば、新しいコーディングの技術や斬新なデザイン・レイアウトを試してみようとする際に、クライアントからの指摘や失敗を恐れてそのリスクを過大評価し、むしろ無難で安全な選択をチームとして優先することがあります。これは、損失回避バイアスといい、損失を回避しようとする傾向なのですが、損失(失敗)というネガティブ体験のバイアスが強すぎるため合理的な判断になっていないのです。本当に損失するかどうかはやらないとわかりません。確率は五分五分なはずです。むしろ、市場全体で求められていることであれば、成功する確率のほうが高いように見えます。

直面している課題やデザインしたい体験について既知なのか未知なのかを判断する手法の1つに、「The Known-Unknown Framework of Discovery(新知識発見のための既知・未知フレームワーク)」というものがあります。

自身の経験から断言できますが、ソフトウェアやモバイルアプリ開発において何か新しい技術の検討やデザインのアプローチがあった場合、あまりにもコストがかかる場合は例外として、基本的には一日でも早く採用し、チームとして経験値を積むことが重要です。採用した上で意味がないと感じたら製品化しなければいい話です。リサーチなどに時間を費やして採用する判断の可否まで時間をかけてチームとしての経験値取得を後回しにすることは、この業界ではマイナスでしかありません。

しかし、だからといって、なんでもかんでも新しいテクノロジーや未知のものすべてが良いとは限りません。特にそれがビジネスに繋がるかどうかは、全くもって別の話です。しかし、UXをデザインする上ではこういった未知のものに対するチャレンジがなければ、新しい価値は生まれませんし、また、それを受け入れる姿勢もなければ、ビジネスに繋がることはありません。このようにUXデザインの実践では、バイアスとヒューリスティックの理解を持ちつつ、未知に対する抵抗力を減らす努力と受け入れる姿勢をチームとして持つことが非常に大切です。

焦らず専門家にまず相談しよう

プロジェクトの内容に関わらず、なるべく早いタイミングでUXデザインの専門家に相談することが、UXデザインをスムーズに実践するための最善策です。場合によってはUXデザイナーが必要ではなく、UIデザイナーで対応できる話かもしれませんし、そもそもUXデザイナーという外部の専門家にお願いしなくても、チーム内のリソースだけで対応できる話かもしれません。

このような判断をプロジェクトの開始時点で行うことができれば、無駄なコストをかけずに進めることが可能です。UXデザインをどのように開始するのか悩んでいたら、是非お気軽にお問い合わせください。無料でご相談受け付けています。

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