これまで「UX=ユーザビリティ」でないとか、「ブリーフィングはUXデザイナーが準備したほうがいい」など書いてきましたが、どういったプロジェクトに対してUXデザインが効果的なのか今回はまとめていきます。UXデザインそのものは学術的なアプローチなので、基本的にはどのプロジェクトに対しても実践できますが、最も効果的に実践できるタイプのプロジェクトをまとめています。

製品やサービスとそれを利用する人とのインタラクションの観点からUXデザインの概念が生まれています。この概念を効果的に応用できる製品やサービスとはどういったものでしょうか?

社会的インパクトを与えるプロジェクト

社会的インパクトというのは、「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的な変化や効果」のことを指します。つまり、イノベーションとも言い換えることができます。イノベーションと違うのは、社会的インパクトは、既存の様々な技術を組み合わせて実現できるケースもありますし、必ずしも新しい未知な技術を活用して得られる結果ではないということです。例えば、「発展途上国で安全な飲料水を提供するシステムの
提供」や「ある難病を治療することのできる医療機器の販売」、「記憶力が向上する学習方法とアプリの利用」といったようなものです。私がUXデザインした子供の弱視を改善する視能トレーニング機器のbloo visionはまさに社会的インパクトを与えられるポテンシャルのあるプロジェクトです。

こういった社会的インパクトを与えるためには、綿密なリサーチとデザインする行為が必要不可欠で、とくにユーザーリサーチが重要な要素を占めています。UXデザインを実践することで、ユーザーリサーチを効果的に行うことはもちろん、普段可視化されていない様々な課題や可能性が浮き彫りになります。そして結果的に可視化されることで、社会的・環境的な変化を捉えやすくなり、社会的インパクトに繋がっていきます。

近年稀に見る大きな社会的インパクトを与えたサービスの1つ、ChatGPT。リサーチや制作の概念や捉え方を大きく変えてしまいました。

なにか”モノゴト”を便利にしたいプロジェクト

UXを構成する7つの要素の中に「役立つ(Useful)と「価値がある(Valuable)」があります。まさに「便利」そのものを指していますが、気をつけなければいけないのが「利便性」を求めることではないということです。「便利」とは目的達成に都合が良くて役に立つさまを指します。一方で「利便性」は便利さの程度を指します。もし利便性を求めることになると、望まれてもいないのに便利になりすぎ、逆に使いにくさが出てしまうことになります。余計なボタンが多いテレビのリモコンや、日本の乱立している電子決済サービスなどがわかりやすい例です。

物事を便利にしたいというのは、便利さが些細なことでもいいのです。些細なことであっても、その便利さを求めていた人からすると受け取る価値の大きさは計り知れません。例えば、エミレーツ航空では、顔認証技術を利用してパスポートを提示しなくても搭乗できるようになっています。もちろん海外へ渡航するさいにはパスポートは必要なので、パスポートが完全に不必要になるわけではないですが、パスポートを見せる必要がなくなったことは便利さ以外のなにものでもありません。このエミレーツ航空のケースは、わざわざリサーチをしなくても与えられる社会的インパクトの大きさや実現性は想像できるので、そこまでUXデザインを実践してないかもしれません。しかし、チェックインから搭乗における行動の観察や顔認証技術には当然ながらUXデザインの実践は不可欠です。

エミレーツ航空のケースだけでなく、宅急便の着払いやアマゾンの返品システムなども物事を便利にするために生み出されたサービスです。便利を形にするためにはUXデザインの実践は非常に効果的です。

person holding iphone 6 inside car

Uberの出現により、移動の便利さは格段に増えました。

とにかく共感を得たいプロジェクト

ビジネスの中で、「共感を得る」というのは当たり前の話ですが、その共感を得ることが難しいからなかなかビジネスになりにくいという側面があります。これは自分にとって当たり前の話でも、話す相手にとって当たり前でないことが原因の1つですが、物事の捉え方が人それぞれで異なるために起きることです。同じ環境や同じコミュニティに長く滞在している人同士では共感を得やすいですが、全く異なる環境下にいる人同士では、体験してきてる内容が大きく異なるため共感を得る視点が異なります。世代ギャップが非常にわかりやすい例です。

日本で未だにカーシェアリングが始まらないのも様々なデジタル化が遅れているのも、この共感が大きな要因の1つです。ただし、日本の場合は総意が重要視される文化背景があるため、プロジェクトに関わっている全員が共感しなければ先に進められない、もしくは一生実現しないままです。しかし、このような大きな集団からの共感を得る作業には、UXデザインほど最適な方法はありません。

顧客に対してではなく、プロジェクトを進めていく上で話し合うことになる関係者に対してUXデザインの実践というのは、本題からずれているように見えますが、共感を得る作業を繰り返し行う必要がある点では、チームメンバーでも顧客でも相手は関係ありません。チームメンバーから共感を得られなければ、顧客からも共感を得られないのです。

UXデザインのベースにはデザイン思考があり、デザイン思考は共感を得ることから全てが始まります。なので、UXデザインを実践する=共感を得ることなのですが、これを幅広く展開する話として、上司や同僚、投資家から共感を得るためにも活用できるということです。

焦らず専門家にまず相談しよう

プロジェクトの内容に関わらず、なるべく早いタイミングでUXデザインの専門家に相談することが、UXデザインをスムーズに実践するための最善策です。場合によってはUXデザイナーが必要ではなく、UIデザイナーで対応できる話かもしれませんし、そもそもUXデザイナーという外部の専門家にお願いしなくても、チーム内のリソースだけで対応できる話かもしれません。

このような判断をプロジェクトの開始時点で行うことができれば、無駄なコストをかけずに進めることが可能です。UXデザインをどのように開始するのか悩んでいたら、是非お気軽にお問い合わせください。無料でご相談受け付けています。

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