前回の記事普及学について触れたので、日本市場における普及について解説していきたいと思います。これから日本で事業を起こそうと考えている人や日本に進出しようと考えている企業の方には非常に有益な情報です。日本人であり、7カ国(日本、中国、ドイツ、オランダ、UK、カナダ、アメリカ)でUX/UIデザイナーとして様々なビジネスに関わってきた自分が、他国との違いを実際に経験して見えてきた内容を中心にまとめていきます。

日本は小売店の密集具合やその種類の多さ、そして小売業界に関連したサービスの種類などは他の市場とは比べ物にならないぐらい規模が大きいです。

普及学が通用しない日本社会の同調圧力

普及学は1960年代にアメリカで生まれた学問で、研究の対象はアメリカ市場でした。従って、アメリカでのイノベーションの普及がベースになっているわけですが、全く同じような普及の仕方は日本では期待できません。本質的な大きな理由として日本社会に1)同調圧力がある 2)関係性を重要視するの2点があるからです。同調圧力がある理由は複雑なのですが、組織や派閥といった大きなグループがそのグループ内のリソースやテリトリー内だけでビジネスを行うのが日本です。つまり、この組織や派閥に属していないと大きなビジネスになり得ないので、自然と足並みを揃えることを多くの日本人は好みます。これは、日本のビジネスシーンでの合意形成の形が総意であることと関係しているのですが、とにかくまわりと同じことが好まれる傾向が非常に強いのが日本社会です。そして、日本では一般的に取引相手と関係性を作った上でビジネスを始めるのですが、関係性が先に出来上がってしまうため、製品やサービスの価値とは関係ない部分で取引が決まることが多いのも日本です。要は取引相手に人として気に入られているかどうかが製品やサービスの中身よりも先にくるのです。

こうなってくると、新製品やサービスが素晴らしい価値を提供し、課題を一瞬で解決されるものだと明確にわかっていたとしても、それらが事前に組織や派閥の中で納得され受け入れられている状況でなければ、全員が使い始めるということになかなかならないのです。それぐらい新しいものに対する抵抗力が大きいのです。

日本だけでなく東アジア全体で仕事のあとの飲みは普及において非常に重要な要素です。

people sitting by the table inside cafe

日本独自の普及の仕方

普及学が通用しないというのは、同じ概念を当てはめることができないだけであり、実際には、モバイルインターネットや交通ICカードのスイカなど様々なイノベーションが起きています。ではどのように新しいアイデアや技術が日本社会に普及するのか?とるべき重要なアクションが2つありますす。

  1. 意思決定に影響力を及ぼす有名人や企業と一緒に市場形成する
  2. あたかもすでに流行っているように演出する

1はインフルエンサーマーケティングと似ていますが、実態は全く違うものです。前述の通り日本には同調圧力があるため、とにかく関係者全員の足並みを揃える必然があります。そのためには権力行使できる偉い人や有名人を予め事前に味方につける必要があり、そのため意思決定がスムーズにいくために、ある程度権力をもっている人と一緒にビジネス開発していく必要があります。こういった人たちと関係性を築くところから市場形成していかなければいけません。

2は詐欺のように聞こえますが、しかしとても有効な方法で、事実多くの企業がこのやり方を採用しています。皆がすでに使っているという安心感がなければ多くの一般消費者は動かないので、そのため、製品やサービスがすでに浸透して使われているかのような見せ方や伝え方をします。アメリカや欧州など日本外から来るビジネスは、実績があった状態で日本に進出するのでこの2の方法は必要ないと思われるかもしれませんが、見せ方や伝え方が非常に鍵を握ります。

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日本では普段から広告が乱立しており、日常生活で目に入ってくる情報の多さは他国とは比較になりません。このような環境の中で普及させるためには、より影響力の大きい手法を最初から期待せざるを得ないのです。

製品やサービスの価値提供とは全く関係ないところにビジネスチャンスがあるのが日本

アメリカや欧州では、ビジネスをする上でコンセプトを明確にすることは当たり前で、そのコンセプトに同意するから取引に向けた議論ができるのであり、相手と仲が良い、気に入られたいからビジネスを始めるケースは極稀です。しかし日本では前述の通り、関係性ありきでビジネスがあるので、コンセプト開発以外の部分で多大な時間をかける必要があるのです。これはアラブ諸国や中国などでも見られる背景ですが、日本に関しては他国が想像できない以上にユニークで、必要性は突出しています。

普通に考えたら、製品やサービスの価値や強みを理解して購入を判断するものですが、このように日本ではそれ以上の要素が大きく影響しています。そのためアメリカや欧州から日本に進出した企業にとっては全てがミステリアスに映ります。日本企業との交渉で、いつまで立っても取引が開始しないなんていう経験をした人は多いのではないでしょうか?良い製品やサービスの価値だけを伝えてても、日本では普及しないのです。

従って普及学やgame thinkingで言われているようなアーリーアダプターをただ見つければいいだけではなく、日本ではアーリーアダプターたちと関係性をどう築いていくかが非常に重要であり、かつ、「すでにまわりの多くの人が使っている」という既成事実を作る必要性が普及において非常に重要です。